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100〜1000倍もの水を吸収する高吸水性ポリマー

紙おむつの歴史を変えた高吸水性ポリマー(SAP) 

 高吸水性ポリマー(Superabsorbent Polymer:以下SAP)とは、架橋構造を持つ親水性のポリマーで、自重の10倍以上の吸水力があり、圧力をかけても離水しにくいものをいいます。毛細管現象で吸水する綿・パルプ・スポンジなどや、吸水力の低いコンニャク・寒天などのハイドロゲルと区別するため、1996年にJISで定義づけされました。
 主な用途は、紙おむつや生理用品などの吸水材です。1980年代、当時は分厚かったパルプの吸水材中にSAPを混合させたことで、紙おむつは画期的に薄く、使いやすくなりました。漏れや逆戻りも改善、布に比べて洗う手間が要らず、頻繁に取り替える必要のない紙おむつは、子育てや介護に携わる人々に支持されて大きく需要を伸ばしました。SAPの登場は、紙おむつに使用するパルプの量やゴミの量の大幅な低減にもつながり、紙おむつの使用が環境へ及ぼす影響は,布おむつを繰り返し洗う場合とほぼ変わらないとの報告(2005年5月イギリス環境省ライフサイクルアセスメント報告書)が出されるまでになりました。

主流はポリアクリル酸ナトリウム系
 
架橋構造を持つポリマーの研究は1950年ごろから始まっていましたが、1974年に米国でトウモロコシ由来のデンプン系グラフト重合によるSAPが発表されてから、世界各社で開発が盛んになりました。グラフト重合あるいはカルボキシメチル化によるデンプン系およびセルロース系、ポリアクリル酸塩系・ポリビニルアルコール系・ポリアクリルアミド系・ポリオキシエチレン系などの合成ポリマー系と、様々な組成や合成法が研究されましたが、今、性能とコストの両面で最適とされるのがポリアクリル酸ナトリウム系です。
 ポリアクリル酸ナトリウム系SAPは、アクリル酸を部分中和させ、架橋性モノマーと共重合させることで得られます。中和にあたっては、使用時に皮膚にやさしいpHを保てる範囲で行います。 工業的には、モノマー水溶液を重合して得られたゲルを細分化する水溶液重合法が主流です。




こうして合成されたSAPは、軽度に架橋した3次元網目構造を持ち、ところどころにあるカルボキシル基が水を含むとゲル中にナトリウムイオンを解離するようになっています。




SAPの粉体が吸水して膨らむ様子をご覧ください

高吸水の秘密は3つの力バランス

 SAPの最も特徴的な性質は高吸水性です。純水なら自重の100〜1000倍、生理食塩水なら20〜60倍を吸収して膨らみ、保持することができます。なぜそれほど高い吸水力を発揮できるのか。その秘密は、SAPの持つ親和性、浸透圧、架橋密度の3つの力バランスにあります。



a. 浸透圧−吸い込む力

 SAPの吸水力を決める最も大きな因子が浸透圧です。ゲル中の解離イオンによる浸透圧が高いほど吸水力は高くなります。ポリアクリル酸ナトリウム系SAPはゲル中にナトリウムイオンを解離するので、浸透圧差により多量の水を吸い込むことができるのです。
 溶媒のイオン濃度が高くなると吸水力は低下します。したがって尿の場合は若干、純水より低くなります。もっと高濃度になりゲル内より外の方が高くなると、今度は逆に水を放出して収縮します。また、溶媒中のイオンが多価金属塩の場合は、架橋を生成するため吸水力が低下します。

b. 親和性−浸み込む力
 吸水力はポリマーと溶媒の親和性も重要で、親和性が高いと大きくなります。また、親水性のカルボキシル基を持つSAPは水との親和性が高いため、水や尿をすっと吸い込みます。粒子を小さくして表面積を広げれば、よりすばやく浸み込むようになります。逆に有機溶媒はSAPと親和性が低く、また、カルボキシル基がナトリウムイオンを解離しないため吸収しません。


c. 架橋密度−保持する力
 SAPは軽度に架橋した網目構造を風船のように膨らませて取り込んだ水を保持します。架橋密度が低いほど網の目が大きくなり吸水力は高まります。一方、低すぎると必要なゲル強度を保てず、果ては水溶性ポリマーと変わらなくなります。
 おむつに使用する際は加圧下での吸収倍率も考慮する必要があります。膨潤したゲルが軟らかいと体重がかかった時に変形して粒子間に隙間がなくなり、表面でしか吸水できなくなります。吸水材全体に尿を拡散させるには、加圧下でも変形しにくいゲル強度が必要です。ゲルの吸水力を落とさずに強度を高める方法として開発されたのが表面処理技術です。表面だけを2次架橋させて強度を高め、ゲル内部の架橋密度は低く保つことで、加圧下でも高い吸水倍率を維持することができます。



SAP入り紙おむつの普及は全世界へ拡大
 SAP入り紙おむつが登場し始めた1986年当時、約12万トンだった全世界のSAP生産能力は、2006年現在で約140万トンまで拡大しました。
 最近はSAPメーカーの淘汰も進み、効率よく生産できる企業だけが残りつつあります。世界最大のSAP生産能力を持つ日本触媒では、プロピレンを触媒で酸化する製法で原料のアクリル酸を安価に大量生産できる上、独自の工業生産プロセス、表面架橋技術の開発に成功、その後もニーズを先取りした機能実現でトップシェアを獲得しています。
 日本や北米での紙おむつ普及率は9割以上となり、今後は東欧や中国、南米をはじめ世界各国での需要拡大が見込まれています。
(取材協力・日本触媒)

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