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「光の時代」到来を促したプラスチック

*ノーベル賞の成果を活用して誕生

 シクロオレフィンポリマー(COP)は、原油を熱分解した時に得られるC5留分の中に存在するシクロペンタジエンを原料とする熱可塑性のプラスチックです。2005年ノーベル化学賞を受賞したイブ・ショバン博士、リチャード・シュロック博士、ロバート・グラブス博士らが明らかにした「メタセシス反応」という原理に基づいて作り出されたものです。低吸水性・非晶質で脂環構造を持つ炭化水素系ポリマーであることが最大の特徴で、空気中の水分(湿気)による変化の抑制、光学用材料としての必要特性である透明性の確保を両立させています。光学材料として最も古くから使われ、最も信頼性が高いガラスを代替できる性質を保有しています。しかもプラスチックであることからガラスに比べ成形加工が容易で、工業的に大量生産ができるという、まさに夢の光学材料といえます。



 COPの一番の特長である低吸水性と透明性についてさらに詳しくみてみましょう。まず、湿気を吸いにくいプラスチック材料とはどんなものでしょうか。ポリエチレンやポリプロピレンは、スーパーの買い物袋や、自動車のバンパーなどに使われるもっとも身近なプラスチックですが、これらは炭素と水素だけからできている炭化水素で、極性がなく低吸湿性です。ところが結晶構造を形作るため、強度は高いものの透明にはなりづらく、レンズにはとても使うことができないという欠点があります。プラスチックを透明にするためには、この結晶構造をとらないようにする、つまり非晶質にすることが必要になります。ちなみにガラスも非晶質です。
 低吸湿・非晶質ポリマーの開発にあたって、研究者が注目したのが脂環構造という分子骨格です。吸湿性が低いという特長を持つ炭化水素に環状の構造を採り入れれば、非晶質であると同時に、耐熱性の向上(ガラス転移点の上昇)というもう一つの要求物性も満たすことができるからです。ポリエチレンやポリプロピレンのような鎖状構造のプラスチックではなく、環状の構造を持ったモノマーを重合した炭化水素系ポリマーの開発がターゲットになりました。この重合に活用できる手法は主に2通りの合成方法があり、その1つがメタセシス反応です。



 メタセシス反応は、有機化合物の二重結合の組み換えを行う反応技術。ただ、二重結合は低い温度での架橋を起こすと黄変などの原因ともなるため、開発陣はメタセシス反応を使うと同時に、さらに水素化という方法を用いて、メタセシス反応で生成した二重結合を徹底的になくすことに成功しました。医薬品製造などの分野で主に活用されるメタセシス反応と、高分子に適用するのは難しいといわれる水素化反応を使いこなしたことで、低吸湿性で耐熱性が高く、さらに透明性や低屈折率など光学特性に優れるという、今までにない性質をもった新プラスチックが誕生したのです。



 このCOPの誕生から約15年が経過しました。当初に想定していたCOPの用途は、記憶容量の拡大が進む光ディスク分野でした。しかしこれが予想したほどの市場を形成できずにいる間にプラスチックレンズが加わりました。コンパクトカメラ用などから始まり、CDなどの読み取り用ピックアップレンズで採用が拡大し、プリンターやパソコンなどでも実用化が進みました。携帯電話にカメラが搭載されると、このレンズもCOP製が主流を占めるに至っています。光学用途以外にも、不純物が少ないなど高いクリーン度が評価され、半導体関連の搬送容器、食品・医薬品分野の容器や包装材、自動車のライティング関連の製品としても新規用途が開発されました。
 さらに今から10年程前、1990年代の半ばになると、液晶ディスプレー分野が大きく花開いてきました。ライトから画面までの光をうまく導くための導光板と呼ばれる部材などからはじまり、現在は複屈折性による光学的な歪みなどを防止する位相差フィルムなどで大量に使用されています。他の光学フィルムの機能を代替する用途や光を散乱・拡散させるための拡散板用途など、次々に新しい用途が開拓されています。
(取材協力・日本ゼオン)
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